『青色本』を掘り崩す――ウィトゲンシュタインの誤診 (講談社学術文庫)

「はじめに」に書かれていますが、この著書は「青色本(青いノート)」の後半部の解読と、そこからの哲学的思索を内容とし、青色本後半部の翻訳と永井の思索の展開が交互に続くスタイルとなっています。(解読といっても、ウィトゲンシュタイン の真意の解明が主な目的ではないので、青色本の深い理解のための解説が主題ではありません。永井の思索はかなり広めに展開されていきます)タイトルの「誤診」というのは、おそらくウィトゲンシュタイン が編み出した哲学的迷悟に対する言語批判による治療法がウィトゲンシュタイン 自身の哲学的病いについては適応するものでなかったということでしょう。さて、p21から「語は対比項なしには使われえないか」という問題に触れるが、永井の思索に少し違和感を感じるだろう。語が対比項なしに使われることに対して、そのような対比項なしの使用により言語が拡張していくということを書かれていますが、説明が少なく例文もおそらく良くないので理解しづらいと思われます。永井の思索は、主に独我論を主題としていますので(そこは翻訳に対して永井の思索が分厚い部分です)、言語批判や分析哲学を求めている方は、少し予想と異なる内容になるかもしれません。ウィトゲンシュタイン と永井の思索の両方に興味がある場合、まず、永井の「ウィトゲンシュタイン 入門」を読んでみるといいと思います。(蛇足)「語は対比項なしに使われえないか」ウィトは、「床は電子からできているから硬くない」という表現を問題にします。この表現の時、「電子からできているなら硬くない」というなら、「全てのものは硬くない」ことになってしまう。この場合、「硬くない」は日常言語の表現を超えて使われているのに、対比項の「硬い」とはどういうことか現時点では全く不明です。(ここでのウィトの見解(形而上学的使用と日常的使用に対する)は短絡的であり間違っているが、「哲学探究」を読めば、より深い見解へと移行することが分かります)永井は、全般的な語り方と対比項を並べたり、対比項が非日常的な次元へと拡散されていくことを述べるが、ここはかなり足早やです。立ち止まって、よくよく考えてみると、興味深いかもしれません。