40歳から「差がつく」生き方

４０歳までに勉強しておけというのが本書の中心的メッセージである。だが、私にとっての本書の最大の魅力は、「日本社会の異常さ」を分かりやすく指摘していることだった。苫米地氏は海外生活が長かったため、日本を相対化して見ることができるからだろう。全体的に的確な指摘が多いのだが、｢奴隷｣という強烈な言葉に反感をもつ読者がいても不思議ではない、と思う。以下に、印象に残った部分を簡略して記す（カッコ内は私のコメントです）。・どの分野でも、40歳までは勉強の時代だ。要は、いかに早く気づいて、いかに必死で学びを始めるかなのだ。逆に言えば、40歳まで一生懸命に学んでこなかったのに40歳以降も勉強できないような人は終わりである。（情報が洪水のように生じる時代に生きる私たちが若い頃に身につけるべきなのは、｢勉強する習慣｣と｢効率よく勉強する技術｣だと思う。）・大学時代にどれだけ専門的なことを勉強した人でも、日本企業では間違いなく三年でバカになる。日本の会社はそういう仕組みになっている。バカとは自分の本来の目標を目指さずに会社の｢優秀な奴隷｣になるように洗脳されてしまうという意味だ。（ミもフタもない言い方だが、日本企業につとめるサラリーマンが｢不測の惨事｣に世界一弱いことは、米国の金融業会のカリスマであるニコラス・タレブも指摘している事実だ。これは、日本企業に勤めていると汎用性のあるスキルを身につけにくい上に、副業が禁止されていることと関係している。）・会社員生活を送っていて｢同期のこいつらよりも、少しでも早く出世したい｣という気持ちが浮かんできたら、会社にうまく洗脳されてしまったということだ。同期より早く出世するには会社の収益を上げるしかない。同期より早く出世しようがしまいが、自分のゴールではなく会社のゴールを目指すように仕向けられているわけだから、それは会社の｢奴隷｣と同じだ。（奴隷かどうかはともかく、確かにこれは｢自分の人生を生きていない｣ということになる気がする。）・普通は、出世すればするほど抽象度の高い仕事をすることになるから、だんだんゼネラリストに近づいていく。ゼネラリストだから、どの会社でも通用するはずである。ところが日本企業は上に行けば行くほど、よその会社では役に立たない人間になっていく。企業が若い人を採りたい理由の一つはそこにある。奴隷度の高い人が出世して上がっていく仕組みになっている。奴隷のリーダーというのは、上の人の言うことを忠実に聞いて、正確に下の人に伝える能力を高めることで昇進していく。だから人の話を聞いて、それをいかにも自分の言葉であるかのように下の人間に伝えることは得意だ。日本の社長はみなその能力に長けている。政治家も同じだ。結局、日本では政治家から新入社員まで｢奴隷｣しか生まれないような、ものすごいシステムをつくりあげてしまっている。奴隷というのは、自分の意思で行動していないため、責任逃れはできる。みんなで沈んでいくことになっても、誰も責任を取らずに済むシステムだ。しかし｢自分でゴールを設定したい｣という人にとっては、非常につまらない社会である。（これは日本の社会システムの本質的欠点に対する、非常に優れた指摘だ。）・著者は中学生のときアメリカで育った。アメリカの学校では、授業中に堂々とメシを食っている生徒がたくさんいた。先生は誰も注意しない。糖分をとってからのほうが授業に集中できると考えているのだ。学校に制服がないのも当たり前だった。そんな環境で育ったため｢自分が正しいと思うことをすればいいのだ｣という考え方が身についた。（著者が日本人離れしているのは、こうした背景が影響しているのだろう。）・職業はカネを稼ぐものだというのは誤解である。職業とは、社会に提供する機能のことであり、その提供した機能がカネになる場合もあればならない場合もある。自分の力がもとめられている場所には、どこにでも機能を提供すればいい。（アマゾンにレビューを書いても、一文の得にもならない。私は、広義の「職業」だと思って割り切っている。）・非凡な人は自己評価が高いのが特徴だ。自己評価が常識の範囲から外れて異常に高い。｢常識はずれだ｣といわれるが、気にしてはいけない。逆に｢あなたの常識って本当に正しいの?｣と逆に問いかけてみればよい。他人に非凡と思われようと、自分が｢こっちのほうが正常だ｣と思っていれば何の問題もない。自分の目標を目指すのだから、他人がどう思おうが関係ない。非凡な人間から見れば、まわりの人間の常識のほうが間違っている。そんな彼らの常識に合わせる必要などない。（もっと日本人の自己評価が高くなれば、うつ病や自殺が減るのではないか。日本では、自己評価が「世間」と自分との関係で決まりがちな点が問題なのではないか。）・日本では自己評価を低くする教育ばかりしているから大抵の日本人は自分に自信を持っていない、そのため、悪口を言って相手を引きずり降ろそうとする。ツイッターのツイートに占める悪口の割合は、日本が突出して高いのは、そのためだ。自己評価を上げれば、人の悪口を言う気はしなくなる。自分はものすごい人間だと思っているので他人を引きずり降ろす必要がない。悪口を言う時間がもったいないと感じ、自分の目標に向かってすべてのエネルギーを使えるようになるだろう。（日本のネットにおける悪口の多さの理由が納得できた。悪口を言うヒマがあったら、自分の好きなものに向き合うほうが幸せになれると思う。）